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第一回:

『そうです。私が、
ケンですよ。』の回


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そうです。私が、ケンですよ。

小さい犬が二匹と、小さいうさぎが一匹の、小さなお話をひとつ。

まぁ……ピンクのうさぎさんのお話を置いて、こちらが先に来るとは、露にも思いませんでしたが。


「あついぃ〜……」
あの怒涛の春は、呆気ない程にさっさと過ぎ去り、季節はそろそろ夏になろうとしています。

日本の四季というのは、素晴らしいですね。
春は桜が舞い、夏は陽の光、秋は少しの寂しさ、冬は目一杯の雪が、私たちに、無限の愛情とたっぷりの趣を捧げます。
この国に生まれたということを、誇りに思えることは素晴らしいですね。
今は、この関東近辺を彷徨いているだけの私ですが、いつかは遠い他の土地へも赴いて、全ての愛おしい景色を、この目に焼き付けたい。

その時にも……あなたが、隣に居てくれれば良いのですが。まぁ、あなたが、飽きなければの話ですけど。


「あつい〜……このままでは、死んでしまう……」
「マフラー巻いて、なにをほざいてるの〜とっととその首のリボンを、ドブ川にでも捨てちまえなの〜」

はい。暑さで今にも死にそうにしている、水色のうさぎが、りのんちゃんです。

首に巻いてリボンに結んだ、深い海の色のスカーフが決まってますね。まぁこのスカーフ、私があげたんですけどね。これって、自画自賛って感じですか?
光る星を宿した、キラキラで純粋な、まるで鉱石のような蒼い色の瞳。とても綺麗ですよ。はい。


その隣で、ゆ〜っくりとした話し方の、魅惑のウィスパーボイスで猛毒を吐いている、薄いむらさき色のぶち模様の犬を……れの、と言います。

猫耳のヘッドドレスを付けて、猫に憧れているのかと思えば、犬の耳は、そのまんま出ています。はい。滅茶苦茶です。正に、れのの存在そのものを表したようなアクセサリー。
なが〜い空色のリボンをひらひらと靡かせ、女の子になりたいのか?と思えば、本人曰く、「そんなセンチメンタルは、クソくらえなの〜これは、ビジネス!『かわいい』をプロデュースして、体現しているの〜。」。
雨も降ってないのに、桃色の、お姫様のような、差す意味のあるのか分からない位のちっさな傘を、肩にくるくる回しています。
少女漫画の登場人物のような、睫毛ばしばしのウルウル大きな瞳には、紫陽花の花がの光が、宿って……いません。これは、カラコン。れのは、全てが嘘偽りばかりなのです。 


この三人の私たちは、少し前から連れ立って、この周辺を歩いたり、止まったり、また歩いたり、夜は寝たり……しています。
何もしていないって?そういう見方も、あるでしょう。それは、彷徨いているのが地球人であれば……のお話ですね。

それと言うのも、りのんちゃんは……実は、宇宙からやって来た、遠い星の王子様なのです!わぁ!凄いですね!
正確に言うと〜、今では、身体にあった母星のエンブレムも消してしまい、(水で洗ったら消えました〜)、王子様は廃業しているのですけどね。
やぁ、お話が、凄いところへ、飛んで行きましたね!しかし、このお話は……全体的に、こんなファンタジーレベルでは収まりません。


ここから、回想シーンですよ。私のハイライトなので、覚悟してくださいね。

りのんちゃんが遠い遠い……小さな星で、齢三才を迎えた時に、彼の戴冠式のパレードが行われました。
私は、その煌く美しいパレードの様子を、五才の時に、眠っている時の夢で、見ました。

おっと。着いて行けないと……。まぁまぁ。これからですよ?
パレードは、きらきらと眩いばかりの沢山の色の光に包まれて、満点の星空の下、まるで虹色のステージでした。
宙に浮かぶフワフワのゴンドラと、見たこともない不思議な生き物のオブジェがいくつも連なって、パレードは進みます。
りのんちゃんを称える爆音の生演奏が、小さなその星じゅうに響き渡っていました。
星に暮らす、水色のうさぎ達は、地面に立って宙に浮かぶそれを眺めながら、これまた水色のライトを振って、一生懸命お祝いをしているようでした。
私は、思いました。ふっかふかの暖かそうなマントを纏った王子様は、星の光の入った綺麗な蒼色の瞳をしていましたが、その中には、不安の揺らぎがあり、胡乱でした。

このパレードの輝きや光、希望、温かみに対して、まるで居心地悪そうに、頼りなくお一人で、ひたすらに懸命に、その場に立っていました。

とても……寂しそうだと。そう思ったんです。



その夢から目覚めた朝、私は確信しました。
これは、夢なんかではなかったですね!確かに、私は、私の、星の王子様に会いました。

そしてもう一度会ったら、必ず、お友達になりましょう。
もう、あなたが寂しくないように。寒くもないように。笑ってくれるように。
その時まで、私は王子様にまとわりつくことを止めないでしょう。私はいつか、もう一度、王子様と出会うと誓いました。そして、笑ってもらうまで奉仕して止めないと、思いました。それが、生まれた意味と確かに感じました。



このエピソードは、百回でも、二百回でも、三百回でも、擦りました。

私は嬉しくて嬉しくて、心が弾んで……会う人、会う人に、「夢で、王子様と会いました」と、パレードの眩いばかりの光景や、王子様のお姿を、これでもかと事細かに語りました。
その内に、誰も笑わなくなって……『ケンは、そういうダルいキャラ』と確立されていっていましたね。
でもそんなことは、気になりませんでした。


そのま〜んま、何も起こることなくアッサリと月日は流れ、私が十三才となった頃のある日、その時は突然に訪れました。

「何年も何年も……同じネタを擦りやがって、その話題しかなのかよ〜クソしつこいの〜この能無しバカ犬〜。これをやるから、一生黙れなの〜。」

私の頭に投げ付けられたのは、てっぺんに大きな星の付いた……見た目は、日本のアニメーションの中で、少女の持つような、魔法のステッキでした。

ここで登場したのが、先程、ご紹介した、薄むらさき犬の、れのですね。
れのとは……、腐れ縁……?といった、感じでしょうか。『悪友』って表現、してた時もありましたが。けれど、れのは存在が悪ですが、私には悪の要素が皆無ですし?二人して悪い事をいっぱいした……とかも、無いですよ。悪い事、は。

少しお話は逸れますが……ぶっちゃけ実は、この時は、れのの体のぶち模様は、むらさき色では、ありませんでした。ハッキリと、金色でした。もっと言うと、自毛は、茶色でした。家で、薬局で買ったセルフカラーで、金髪に脱色してました。
なので、りのんちゃんの『夢』の世界へ初めて、れのがやって来た時は、漫画・『ご当地リベンジーズ』の、『なに…っち君』みたいな姿の……が、てっきり出てくると私は想像してたんで、その変貌ぶりには内心、少し驚きでしたね。

あっ。そうですね。りのんちゃんの『夢』のお話は、このお話全体のハイライトなので、また後程……といたしましょう。

「願いを込めて、星のステッキを振り回すと、好きな人と『夢』で会えるの」
れのは、そうハッキリ言いました。なんでしょうね。なぜかは分かりませんが、私も、なかなかまた王子様と会えないので、痺れを切らしていたのでしょうか。
よりによって、れのなどの言うことを、まるまるっと信じて、地面に落ちたステッキを拾って、ぎゅっと握り締めました。
けれど、ここで自らをフォローいたしますが、れのには……不思議なパワーがあるようだったのです。
それは、イマジネーション、とか、おまじない、とか、そういった類のものです。その気になれば、呪い、も、出来るのでは?などと、なんとなく、長い付き合いから、そう思うんです。

その日から、夜になり寝室に一人になると、魔法のステッキを振り回す日々が始まりました。
しかし……そう上手くはいかないものなのか、あの王子様と出会うことは、再びはありませんでした。


私が、十七才になって暫く経った、あの日まで。



今度の今度は、王子様に再会した私。けれど、彼は私のことなど、覚えておりませんでした。

お星様の引き立て役さんを、覚えてる究極のアイドルさんなんて、いないんです。
しかし変わらないことはありました。それは彼が、やっぱり一人きりで、そして痛々しい程に……とても寂しい存在だ……ということです。

私は思いました。私が、お友達になりましょう。私が、あなたを、愛します。


この後のことは、この話とは別の物語へ綴られることとなりますが……なんやかや色々あって、お友達になった後、お友達であったのは、たったの二日間だけでした。
宇宙へ帰れなくなってしまった、地球のに一人っきりのうさぎの王子様に、私は「お友達になりましょう。一緒に旅をしましょう。色々なものを一緒に見ましょう」と、申込みました。
楽しく(私はね)、始まった旅の初日……王子様は、「友達なんて、居たことないし。パピーもマミーも、俺を好きじゃなかったっぽいし……」と、涙をポロポロ零していました。
私はその涙を、月並みですが、宝石みたいだな……って、思いました。それか、粒つぶのガラスのビーズ。透明のおはじき。雪の日の結晶。陽を受けた朝露。
気が付いたら私は、「な〜んもない、あなたでも、愛していますよ」と言って、自然と、可愛い唇にキスをしていました。

その日はもう夜だったので、そのまま、ご飯を食べて、眠りにつきました。


……と、思ったのですが……察しの良い方はお気づきかもしれませんが、この王子様、めっちゃ惚れっぽい性格なのです。そりゃもう、途方も無いくらい。
ピンクのうさぎの女の子にも、一目惚れをして……、まぁそれについては、まだちょっぴり可哀想なので、敢えて深くは触れずにおきますが。

ですので、翌日の夜には、もう彼の方から、愛の告白を受けました。
まぁ私からしたら、願ってもない話です。断る理由がありますでしょうか? これで、お友達でいるよりも、彼を、より深く愛せるのです。


その夜に『夢』の中で抱いた彼の身体は……驚く程、冷たく、ひんやりとしていました。
りのんちゃんは、人の身体は体温で温かいということを、知らなかったのです。



一緒に、様々なものを見ました。花を見ました。空を見上げました。虫を捕まえてみせました。甘いお菓子を食べました。
木々に実るものを眺めました。夜には一番星を見つけました。満天の星を見ると、彼は必ず嫌な顔をしていました。
最初は、私だけがドタバタとしているだけで、彼は後ろに手を組んだままぼんやりと、一人騒ぐ私を眺めていました。と言うより、まるで虚空を見ているような、虚無の瞳でした。


その内に、まったくの無表情であった彼のお顔に、少しずつ、変化が表れました。
ふにゃっと笑った可愛らしい笑顔、しょうもないことで怒った顔、最初は気味悪がっていた植物や花を見て和んでいる顔、それから、まだ時たま覗く、かつてを思い出してしまうような氷の瞳……。
そして、そんな毎日がつらつらと続いたある時……。
りのんちゃんは、「れのという輩を『夢』の中に呼ぼう。俺も、れのに会いたい。れのとは、何なんだ?怒るぞ?」と、私を責めました。



ここで、りのんちゃんの『夢』の、お話です。大事なお話なので、よく聴いてくださいね。


りのんちゃんの『夢』は……夜に眠って見る夢とは、別のものです。
『夢』は、幼かった頃の彼の、イマジネーションのシェルター。余りにも辛い現実から逃れ、『好きな人』に、出会えるふしぎな場所。
その中で私たちは、皆、人間の姿となって、種族も越えた関わりを持つことが出来るのです。

ピンクのうさぎの女の子と出会った時などは、彼の『夢』に、彼自身の心の波から、大きな揺らぎが起き、様々な方の『夢』と混線をしてしまう……ということが起きました。
まぁ……その混乱に乗じて……私が『夢』に滑り込んで、パレードの王子様と再会できたのも、『夢』の揺らぎの中の一騒動の内だった訳ですが。


だって、『悪友・れのの魔法のステッキのおまじない』は、ニセモノの魔法だったのです。
後からになり、れのから聴きました。
「きゃはは〜!ケンは、クソ雑魚ゴミ虫さんなの〜あれは、魔法のステッキじゃなくて、ボールペンなの。必死に振り回して、バーカバーカおつかれさまでしたぁ〜!」

……って言ってました。いいんです。別に。れのなんて、放っておけば。ステッキ(ボールペン)との因果関係は別として、再会という目的は、、めでたく果たされた訳ですから。


地球に来て、旅を始めて暫くが経ち、りのんちゃんはほんの少しだけ……こころが平和になったようでした。その為、以前のような『夢』の世界の混線はもう起きることがなく、『夢』に鍵を掛けられるようになりました。
鍵は何種類かあるようで、いつもベルトに下げていますが、触らせて貰ったことはありません。今のところそういうことはありませんが、もし彼を怒らせちゃったら、私だけ世界から締め出されたり、するんでしょうかね。
『好きな人』として、『夢』に登場できて、光栄であり、幸福に思います。



そう、そして、お話の続きです。りのんちゃんは、遂に『夢』の中で、気になるれのに、初めて出会うことが出来ました。


それは……青天の霹靂!そうです。恒例の……一目惚れ、でした!


なぜ私は、そうなるであろうと思い至らなかったのでしょう。二人を会わせてみれば、そうなるということは、目に見えていたのに……。まったくの失策でした。

初対面の、れのの手を取り、王子様(元)は言いました。
「かわいい!!結婚してください!!!」


れのをして、お返事はこうでした。

「真っ平御免なの〜れのは、れのなの〜。結婚なんて、紙の上の絵空事、そんなのイミフで、眠たくなっちゃうの〜」

ここは一応、地球の日本なので、その気があっても、まだ男性同士は、結婚が出来ないのですけどね。
れのは……ふわっふわで艶々で、豊かな長い髪に、フリル一杯の、それこそ夢の中ようなお姫様気分のお衣装を着て、魅惑のウィスパーボイスで囁きますが、男です。

先程、ちらりと言いましたが……確か最後に別れた時は、金髪に脱色して、アナーキーにでっかいバイクなど乗り回していた記憶とか、あるんですけど、おかしいですね。
この後に一度、どうして、そのように変貌したのですか?と聴こうとしたら、「しゃら〜っぷ。ころすの〜」と、すぐに封殺されました。まぁ、私も大して興味ないので、ど〜でも良いですけど。

「またフラれるのは、嫌だ。れのが俺と結婚する気になるまで、俺の傍に居させてみせる」
この方、毎度ですけど、フラれても食い下がりますよね。究極に俺様なんで……頭が下がります。
「ふ〜ん?じゃあ、れのも、この『夢』のパーティに入れてよ〜。人間になれるとこんなに可愛くなれるし〜『どりらびクラシック』のお洋服も着れるの!ケンは好きだし〜。けど、りのんちゃんとか言うお前が、オモロくなかったら、すぐに帰っちゃうのよ」


こうして、れのが、加入しました。

ちなみに、まだ二人は結婚しそうにないです。ていうかさっき言いましたけど、男なんで、結婚出来ません。実はこのお話に、ゴールは、無いのです。




こうして、三匹で、お昼間は平地をゆっくり歩いて呑気に過ごし、夜は『夢』の中で、まぁ、暈して言うとお互いに楽しむ……という、ゆるい生活の、はじまり・はじまり。
今日は朝からやけに蒸し暑く、夏の始まりそうな埃っぽい空気の中、りのんちゃんは、湿気に茹だっておりました。

「あついぃ〜……」
「りのんちゃんって、体温ひんやりちゃんですから、暑い空気には弱いのかもですね。スポーツドリンクでも買ってみましょうか」
「そんな訳の分からんものが、博打で飲めるか!くれるなら、ひやしあめにしてくれ」

りのんちゃんは、地球の食べ物は、食べられるもの・食べられないものがあります。どういう訳か、私が桜餅の鞄に入れていた、ばぁちゃん菓子や駄菓子の類は、良い栄養となっているようでした。
それと、この辺りの木に実っている、マシュマロや、グミ、飴ちゃんなども、口にすることが出来ました。

そして何より、りのんちゃんの持っていた母性のエンブレムの入ったズタ袋は、ただのズタ袋ではなく、四次元ポケット的な……墜落した宇宙船と、中で繋がっている……という、便利な袋でした。
りのんちゃんは、母星を心で捨てた時、この袋も捨てようとしましたが、必死で止めました。とりあえず、ガムテープで、エンブレムを封じて、ともかく目を逸らしてみました。便利なんで。



れのが、私たちのやり取りを聴いて、呆れて言いました。

「まだ二人は、宇宙人プレイを続行しているの。いい加減その設定、飽き飽きなの。暑くて死にそうって時に、そもそもびみょーなプレイを織り込んでる場合じゃないの」

こいつ、何度言っても、りのんちゃんが宇宙から来た、宇宙うさぎ……ということを、信じようとしません。
私の厨二病的な性癖で、地球の男女は抱き飽きたぜ……という設定にしている……と、思い込んでいます。それ、私に失礼すぎでは?何だと思われている?

まぁ、れののことは良いですよ。今は、りのんちゃんが、地球に来て初めてのこの夏を、無事越えられるか?という試練の時かもしれません。
「暑いし、この辺、変な匂いもする。地球は、終わるのか?」
「地球……っていうか、この日本という国は、四季というものがあって、少し身体には過酷なところもあります。りのんちゃん、大丈夫ですか?」
「四季については、学習したから知識がある。俺を物知らずだと思うなよ」
いつものように威張っていますが、空威張りですね。暑くてバテてるみたい。可哀想に、なんとかしてあげられると良いのですが。



「こっちへ来てほしいの〜!」

呆れてどこかへ去ったかと思いきや、れのが、少し遠くで何やら声を上げました。れのは囁き声が魅力ではありますが、逆を言うと囁き声しか出ないので、ちゃんと聞き取れて良かったです。
また少しお話が逸れますが、れのは、魅惑のウィスパーボイスを保つ為、自らの声帯をぶっ潰したという、ドキュソな経歴の持ち主です。代わりは効かないのに……本当に、馬鹿ですよね。

「温泉が、あったの〜」


なんもない、森の中ですが……自然に、沸いたもののようです。おあつらえ向きに、ちょうど私たちが休めそうな、お湯が沸いているではありませんか。
「やりましたね、れの!ありがとうございます」
「えへへ……今夜は特別に、れのをい〜っぱい可愛がってほしいの!」
温泉に入れば、体調が整って、暑さに茹だってしまったりのんちゃんも、シャッキリとするかもしれません。

「何これ?海っていうのが、これ?」
「りのんちゃん、惜しいです。これは、海ではないですね。これは、温泉って言います。入ると温かくて、身体が整うんですよ」
れのを見ると、遠慮というものがないので、もう既に、勝手に入っていましたね。ほっかほかになっています。

「は〜……温泉、きもちいの〜旅の疲れが、取れるの〜」
トレードマークの猫耳とリボンを外して、広げた傘に入れ温泉にぷかぷか浮かべて……お湯をひとりじめに満喫して、ご満悦の様子です。
「私たちも、入りましょう!」


「肩まで浸かって、百数えましょう」
「結構、熱いな……いつもお前たち、こんな熱湯に入ってるのか?わざわざ?気が触れてるのでは?」

日本の文化は勉強中で、お湯に浸かったまま悪態をついたりのんちゃんに目をやると……。あれ?

「りのんちゃん、なんかお顔の色が、変わってるの〜」


普段は水色の、りのんちゃんのお顔が……あれ?ピンク色……?



そのまま、りのんちゃんは、ぶくぶくと、お湯に沈んでしまいました。




「大丈夫ですか!りのんちゃん!めっちゃ自販機を探して、ひやしあめ買ってきましたよ!こんなの普通、自販機にありませんよ……?りのんちゃん!」
ひとまず、お湯から引き上げて、横に寝かせてみましたが、お顔はピンク色のまま。
これって、のぼせているのでしょうか?それとも、お湯の成分に身体が反応してしまったとか……?
「大事でないと、良いのですが……!」

「おい、ケン」
「はい!!」
お喋り、出来るみたいですね。とりあえずは、良かったです。

「ケン。ちゅーして」
「えっ?」
れのは、慌てず騒がずお湯に入ったまま、言いました。お湯に入った、ままだったんですね……良い根性ですよ。
「お顔がピンクになっちゃうのは完全にイミフだけど、とりあえずちゅーしてあげるの。本人が言ってるんだから、間違いないの。もし本当に宇宙人だったら、効くかもしれないの」
よく分かりませんでしたが……そんなことで、本当に、良くなるのでしょうか?

ちゅっ。

「……変わらないですね……?」
「ちゅーされたかっただけなのね。でしょ〜?りのんちゃん」
「うん」


「そんなことを、やってる場合では、ないでしょう〜!」
私の上げた声が、森に虚しく響き渡るだけでした。
「きっと温泉の効能なのよ。れのの発見したココの温泉が、評判の名湯になる日も近いの〜」

ちなみに……小一時間ほど時間を置いたら、お顔は、自然に水色に戻りました。


「ずるい!俺も、『温泉』、入りたい!」
口を、イーって、『皿』の形にして、りのんちゃんは怒っていました。
ごめんなさいね。私たちだけ、温泉で心地良い思いをしてしまい。


今夜、『夢』で会ったら、とびっきり素敵な気持ちに、してあげますからね。


何しろ、私は、生きとし生けるすべての人に、この際限の無い愛情を、奉仕を、降り注がせたいのです。




そして、あなたを、笑顔にさせる運命が……私の、生きた、意味。




《つづく》