第1回:

『れもんみたいな女の子なの』の回




久しぶり。俺、りのんちゃん。

(今現在は、『ちゃん』まで名前となっている。)



「久しぶり」とか……呑気に言っていられない、のっぴきならない事態になっている。




「あらあら〜! もう、ブーツのほかは、ぜ〜んぶ溶けちゃったのよ。それでも抵抗するのでしょうか?」
「うっ……ぅ……」

だから、だから! 俺はあれほど言ったのに。地球の表面が『草』とか『花』とかいう生命体に、とんでもない広範囲を覆われてるのはおかしいって。危険だって。
口はきかないとは言え生命体なんだから、やっぱり、ハッキリと意思があるじゃん。
ケンは、「植物に思惑なんてありませんよ〜それに、こんなに綺麗じゃないですか〜」とか、よく言うが。


俺は、りのんちゃん。
過去に様々な経歴を辿ったが、今は……かんたんに言うと、地球に在住している、宇宙のうさぎ。
この場所は……今日も今日とて、俺の作った『夢』の世界。

なので今は、『夢』の世界のお約束で、どうぶつのうさぎでの姿はなく、人の姿をしている……けれど。

『ケン』とは……俺の、彼氏のこと。
『夢』の中では、今の俺と同じく人の姿をしているが、ほんとうの姿は、雑種の犬。
うん……ケンのことはまぁ大好きだけど、地球の下等な雑種の犬と交配するなんて、愛があってもやっぱりゴメンだね。どうぶつの姿で、まぐわいたくない。……といった訳で、『夢』の世界で、ケンも俺と同じ人の姿でいる。


そして……俺の目の前にいる、ふりふりふりるの、紫陽花が細やかに刺繍された涼し気なドレスを纏った、長いフワフワ黒髪の、女の子……が、ひとり。




「逃げられないのよ! りのんちゃん! 悪役王子は、犯した悪事に相応の、考えたくもない悪夢を見るの。それは……正に、悪夢! ヒューッホホホホッ! これぞ、『闇のかわいい』の最高峰……様式美にやられて、病んでおしまいなさい!」

高飛車に笑い声を上げ……さながら良家のお嬢様のような清楚で可憐なファッションに似合わぬ、最高のゲス顔を披露している、その子の名前は、れの。俺の……二人目の、彼氏。
 
そう。れのは、見た目は……かわいい、かわいすぎる位の、ちっちゃくて、少しプニな、女の子だけど……。

実は、れっきとした男だ。
漆黒のながーい睫毛の下の瞳に、雨上がりみたいな色の紫陽花のお花を煌めかせて、ペロリと悪戯に舌を出してみせる。
ロリータと呼ばれると聴いた、お姫様のようなクラシックなドレスに似合う、純白のヘッドドレスに装着された、大きな猫耳は、ニセモノ。
猫に憧れて装着している……という訳でもなく……れのは、自分の正体、そう、ほんとうの姿である犬種・『ムラサキコイヌ』を、誇りに思っている……とのことだ。でもここは『夢』の世界なので、両のニセモノの猫耳は、れのの身体の一部となっており、ぴこぴことそれはもう嬉しそうに、れのの喜びの感情に呼応し上下に動いていた。

ケン曰く……「『ムラサキコイヌ』なんて犬は、この世にいませんよっ! れのの嘘に、毎回、騙されないで下さい……」とのことだが、ぜんぜん意味が分からない。れのが、「れのは〜れのなの。れのは〜ムラサキコイヌなの!」と確かに何度も言っている。
嘘なら、ケンも嘘を吐く。むしろ、嘘はケンの専売特許だろ?
当初は、れのは、ケンにとって『悪友』……などと、曖昧を、俺に対して宣っていたくせに、結局、セフレの一歩手前みたいな……形容のし難い関係性だったということが、後に判明した! 嘘吐き野郎はケンのほうだ。ケンは、昔のいっときを、援助交際によって生活していた位のスケコマシだし、何なら、憧れの王子様であるこの俺に近づく為に、灯りちゃんとかいう奴のことも軽く騙していたことが過去に、明るみになっている。
そんな奴の言うことは、信用しないからな。だいたい、嘘とか言って、かわいいれのが、可哀想じゃん。れのが泣いちゃったら、どーすんの?

だがしかし。俺は、こんなにも、れののことを想っているのに……。この仕打ち。


「りのんちゃんのサイハイブーツが、お花の謎液で溶けないのが、正に謎だわ〜でも……世に言うことだけど、わざわざ首を隠した着こなしをしているスポーツ選手のキャラクターは、首が性感帯であると、歴が長く偉いフジョシの人たちの、長きに渡るビーエルの教えにあるの。そう言った意味では……りのんちゃんのサイハイブーツというのは、最後の取って置きパーツと思ったほうがいいの。履いてたほうが、ソー・セクシャルだから、今はまだ許してあげるの」



そう。俺は、以前、れのに『洗脳』されたことがある。
俺は、科学力を誇る星から来た宇宙のうさぎなので、化学兵器や秘密道具などを、数多、日頃持ち歩いている袋の中に、所持しているのだが……。
そんな俺の、『ズルいメカ』シリーズの第二弾・『催眠術にかける宝石』によって、俺は以前、れのによって、自らを悪夢の洗脳状態に晒されたのだった。

……と、言っても、『ズルいメカ』は、故障気味であったり、使う者の加減によって威力を発揮したりしなかったりで……俺は、その時に見たであろう『俺の最も恐れる悪夢』を、目が覚めた時に思い出せなくなっていたし……俺を催眠術にかけた、れの自身も、詳細に渡る悪夢のイメージは描かなかった為、催眠下で何が起きたのかは曖昧になり……俺はその一連の事件のことを、ついさっきまで、忘れていた程だった。


だが、れのは違った。今日の夜に、『夢』に入った時……れのは、どっかから、なんか白っぽいようなピンクがかったような、やけに薄い本を持ってきて、言った。


「『骨の本』を、読んだの〜」

『骨の本』とは?
以前にその催眠事故が起きた時も、れのは「『のんびりちゃん』を読んだのよ。クッソ読み辛くて、凄く時間の無駄だったの〜」などと言ったことがあった。

そして……俺が昔に好きだった、ピンクのうさぎの女の子に対して働いてしまった……俺の、悪の王子たる、悪逆非道の数々……ウッ……思い起こすだけでしんどい……心の傷に触れた……うん、なんかまぁ、ちょっと濁すけど色々な、俺の不祥事を、白昼堂々、暴いたのであった!
それでもって、『ズルいメカA』の催眠術によって、「悪役王子に、制裁を下すの!」と、れのは俺に私刑を下したのであった。

 れのは言った。
「『骨の本』も、同じ作者が書いてるだけあって、お脳みそピンクの連中がまじで頭痛かったの〜でも〜れのは、れのがかわいかったから気に入ったの〜! そして……れのは、あの時、れの達が忘却してしまった、至高の『闇のかわいい』を……『骨の本』の中に、まざまざと見たのよ!」



その時、突如、れのの背後から……人の身長の三倍はあるかと思われ、恐ろしく背が高く、『百合』という花の姿に似てはいるが、醜悪な姿の……大きな『花』が、姿を現した!



「にゅふふ……ご丁寧なことに……この『骨の本』、小説の腕は疑わしいけど、触手陵辱パートの描写はめっちゃ充実してたの。むしろ、作者はその為にこの同人誌を書いたのでは? とすら疑うわ」
グロテスクで大きな、白い花の中央に、蜜が溜まっていて……地球の植物によく見られるような枝という部位は無く、乳白色の……無数の腕のような、柔らかいものをユラユラと宙にくゆらせている。

「は……? えっ? こんな生き物……俺、『夢』の中に置いてたっけ……なんだ? これは……植物……動物?」
「残念ね。りのんちゃん。これは、りのんちゃんの『夢』ではないの。今日のこの場所は、『れのの夢』。あなたは、もう、この運命から、二度と逃れることは出来ないの……!」
「れの! 危ないよ。こんな得体の知れない化け物は対処ができな……んっ……!」

れのは、俺の見たことないよな、暗く崩れた……病んだ笑顔で、クスリと微笑んだ。


「れっつ・ら・ごー、なの〜♪」


れのの横を素通りして、何本もの触腕が、俺の眼前に迫る!
呆気に取られた俺は、その植物? の、白濁とした粘液が滴る触手に、あっという間に五体を絡め取られ、四つん這いの姿勢で宙ぶらりんになり、緩く絞められた首からはうめき声しか出せない。
「んんん〜っ! ……んーっ! う……!」

触手が触れた部分の、衣服がとろとろと溶け落ちる。これは……何なんだ?
ぬらぬらと、まとわりついて気持ちが悪い。それに中央の白い花から、ミルクの飴みたいな……甘い匂いが漂ってきて……全身が、痺れるみたいな……なんだか頭も、ぼーっとしてきた……。
「ん……!」
花の中央に溜まっていた蜜を、掬い取った触手は、空中にがんじがらめに吊るされて身動きの全く取れない俺の、顔や髪に、その身を寄せてきた。

濃いドロドロが、甘い……。やばい、蜜が、口に入った……。頭がカッとなって、身体の芯が熱い。
他の触手は目的の分からない動きをしているが、背中や腹をぬるぬると這われると、今はもう不快よりも、熱さが優っていた。


「これぞ『夢』の、真骨頂なの〜♪」


 れのが、ウットリとした顔で、俺のどうしようもない痴態を見上げている。


「さんびゃくろくじゅう度、えっちなの! れのは、思うの〜! ケンも、りのんちゃんも、イメージが貧困なの!
このお花さんは、れのの、イマジネーションから誕生した生命体なの! それ故に、この『れのの夢』に存在できるのよ。
『夢』の世界は、れの達の想像力で、自由にならなきゃね。なんだって、自由! フリーダムなの〜!」
なんか……以前に、洗脳された時のこと、今更、思い出してきたぞ……。
これとほぼ同じ植物に、俺は無惨に犯された挙句、洗脳の中の世界ではケンのことすら忘れ、この触手と融和して泣いていた。その悪夢の記憶が、今、鮮やかに蘇る。


「悪役王子は、かわいいお花の触手ちゃんに犯されて、無事! 尊厳破壊……そして最後は、触手生物の養分となってしまうの!
でも、幸せなのよ? この子たちの、子どもをいっぱい産む、はっぴぃエンディング。はぁ……なんて『闇のかわいい』なの……」


れのの、瞳の中の紫陽花が、ハートの形になっている。白く生温かく、粘液で滑る触手に体中責められて、はぁはぁ、犬みたいに吐息を繰り返しているのが自分で分かる。
ケン……雑種の犬とか言ってごめんな。これは、洗脳などという、いつか忘れる、嘘のことじゃないから。
『夢』は……いつも言うけど、『ほんとう』だから……。俺は、今日こそ……ダメかもしんない。



四つん這いの状態で宙吊りにされていた俺の腕は、器用に背後に回され、益々、身体の自由は効かなくなった。
本体の花の中央から、一回り太い触手が現れ、頬に擦りつけられる。甘い香りの液が、俺の顔を汚す。
やがて、それは先端を横に開き、中からまた別の生々しいドロリとした塊が顔を出した。どろっ……と、透明な粘液が垂れ落ちる。
「んっ……んぐっ! んぅっ……!」
顔を背けようとしたが、首を絞めている触手に固定され叶わず、その醜悪な……淫らな形状の肉塊を、口内に受け入れてしまう。
「……ン……っ……」
濃く……甘苦い味がするとともに、喉奥まで口腔を支配され……口内の粘膜に、恐らく、媚薬効果のあるその液体を塗りたくられる。

「りのんちゃんは、お口の中も気持ちイイものね〜♪ れの達が、開発しちゃったのが悪いんだけど☆ あぁ……高貴な王子様の端正な顔立ちと、凶悪に淫らで下賤な触手のコントラスト。コレこそ、触手エロスの真骨頂なの〜」

れのが、何言ってるか、ますます頭ふわふわで分かんなくなってきた。上顎や頬の内側や、舌の上、それから、喉の奥を、いっぱい擦られて、甘くて、窒息しそうで、くらくら。

「ん……っ。ちゅ……」
俺は、気が付いたら口を犯されることに興奮を覚えてしまい、そのブニブニとした、しかし芯の硬い触手に、自ら奉仕してしまっていた。
その間にも、腕を、脚の付け根を、締め上げながら、ヌルヌルとした液体を俺の身体に擦り込む触手……それから、先端に筆のような形状を持ち、乳首を舐め上げるように愛撫する触手、それから……。

身体を無理に固定されているので見ることは出来ないが、恐らく、ブラシのように繊毛がみっしりと生えた触手……それが、性器や谷間の敏感な部分を、ネチョネチョと往復し、徹底的に責め立てられている。

くちゅ、くちゅ、ねちゃ……と、粘着質な音が、そこかしこに響く。喉奥を何度も、擦られて、あぁ、達してしまいそう……。
口に入ることが出来ず顔を愛撫していた触手の何本かが、白濁した液体をビュッて、顔面に掛けてきた! 俺も、出したい……。


「くふふ……りのんちゃん、かわいいの。全身を気持ちよ〜くしてもらって、触手の花さんを、好きになってきちゃったのね。
そんなに自分から、ちゅっちゅしちゃって。こんなに一度にされちゃったら、訳分からないくらい、きっとメロメロになっちゃうの。
これを……さんびゃくろくじゅうど眺められるのは、現実には有り得んことだから壮観だわ〜♪
れのもムズムズしちゃうけど、れのという『人間の男』が、触手に割り込むのは、ノー・ノー・ノーなの! れのの触手びーえるの、こだわりなの☆」


快楽を受ける箇所が多すぎて、到底、頭が処理しきれない……きもちいいことしか、わかんない……。
たまに、ブラシ状の触手が、核心を突き、おおよそ後に『それ』を受け入れられるよう、穴の入口に濃い粘液を塗り込めながら、蠢き、ほぐされる。

「……んん……ちゅっ……んぐ……っ」
顔中が汚れちゃった。顎を伝って、さっき顔に出された液体が垂れ落ちていく。口内の一回り太い触手が、抜き差しするたび硬さを増す。そして。
「んっ……! うん……っ! ……こくっ……ごくっ、ごく……」

これ絶対、飲んだらやばいやつ……でも、逃げ場がない! 俺は、喉に叩き付けられた触手の液体を、そのまま飲み干してしまった。
……ボーッとする……。俺は、もうだめ……早く、なんでもいいから、終わらせて……。


正面の中央の白い花から、ヒトのオスの性器に似た、グロテスクに赤黒い触手が現れ、先端から液体を滴らせながら、さっき出された触手を咥えさせられたままの俺の目の前で、見せ付けるようにその体をゆらゆらと揺らす。


「わぁぉ〜。れののイマジネーションったら、思ったより、しゅごいの〜♪ ふぁびゅらすなの〜。りのんちゃん……れのの、愛を、受け入れて……!☆」
れのの……愛? これは、れのの愛なのか? だから、きもちいいのかな……? わかんない。
お尻の穴を拡げていた、細い触手がぬる……と、抜けて、ブラシの触手の退いた谷間に、それは宛がわれる。

俺は、もう気持ちよすぎて……なんにも分かんない。だから、だから、『植物』っていうのは、危険だって、ケンにも……。



そうだ……ケン……。ケン……助けてよ。



『夢』で起きた出来事は、嘘じゃないんだ! 『ほんとう』なんだよ! ケン、助け……。
「……んんん〜! んぅ! ……ん〜!」


一気に、後ろから……その肉棒を、突き入れられた! 瞬間、両の腕を、後ろに引かれて……最奥まで……触手が味わう。
それで、ごしごし、って……いっぱい、いっぱい、出し入れされる。だめ、もう、やだ、やめ……、や、やめ、やめない……で……?

……きもちいい……肌を犯す触手も、ぬらぬらと体中を這い回り、人外の感覚に、俺は虜になる。
やばい、イく……達してしまう。訳の分からない『植物』とかいうやつに、俺は、負けちゃう……。

中のイイところ、突き止めらて、ぐちゅぐちゅって、何度も突き上げられる。……もう……。



「りのんちゃん!」


……遠くから……声が、聴こえる。甘いピンク色に染められてしまった、俺の、脳みそに響く……これは……この声。


「何やってるんですか! れの! バカっ! 犬チョップ!」
「ふぎゃんっ! 痛ぁ〜い! このぉ……虐待犬〜!」


れのの、不意を打たれたような声が聴こえた。その瞬間……。



シュワアァァ……れのの背後の、禍々しい巨大な花の植物が、あっ! 消えていく……。



「わっ! わ……落ち、落ちる……!」
俺を拘束していた触手たちも、しゃぼんの泡のように消えてきて、やばい! 落ちる! 頭ゆるふわで受け身が……取れない!

「りのんちゃん! 掴まって!」

ドサッ!

「……。……ケンん……」
都合良く、お姫様抱っこのように受け止められる腕力が、この骨みたいな痩せた男に、あるわけでなし。
けど俺は、無傷で着地した。助けに駆け付けたケンを、下敷きにして。
ケン。今度は、俺は、犯されてもお前を忘れなかった。俺の下で蛙のように潰れている様子は気の毒だが、助けに来てくれたことが、嬉しかった……。


白い髪に、ピンクの変なメッシュ。トレードマークの桜餅の形をした鞄は……忘れてきたのかな。おもしろ柄の、五分丈のスパッツ。
それから、来てくれたところへ悪口を言うけれど、殆ど足が出ていて機能性皆無の靴。『雪駄』とか、言うらしい。インソールが、い草という植物で作った、畳で、出来ているとのこと。
ケンは、こんな変な格好してなけりゃ……ソコソコだと、俺は思うけど……いや……痩せすぎてて、見た目ほぼ骨だから、やっぱダメか。


全身に塗り付けられたヌルヌルが、ケンの、ゆるくてでも真っ白な服を、ぐじゃぐじゃに汚した。
「あぁ〜……りのんちゃん! このような姿になって……心配しましたよ。無事ですか?」

俺を見下ろすケンは、いつもの間抜け面。でもこの異常事態に、トパーズ色の瞳は動揺を隠せず、薄らと涙が揺らめいている。
「……無事じゃない……なんか……れのが想像力で作り出したとかいう、でかい花の……催淫作用にやられて、植物に犯された……」
グッタリと寝転がったまま力の入らない俺の手を取って、ケンは自分の手や腕、服が、俺にまとわりついていた粘液に汚れるのも構わず、俺を引き寄せ、抱き締めた。
「それは……辛かったことでしょう……ごめんなさい、涙が出てきてしまいました……」

何やら、ぽろぽろと涙を零している。

「泣きたいのは、こっちだ〜……とりあえず、この中途半端を、なんとかして……」


大元の植物は、絶命した……? が、体に擦り込まれたり、口から飲まされた、甘いシロップみたいなものの媚薬のような作用は消えず、体の疼きが収まることなく、ケンの服に少し擦れただけで敏感に感じてビクンと反射で体が跳ねてしまう。
「そうですね。古式ゆかしい、お清めえっちとします。……れのは、出て行って下さい」



俺の……幸い、服と一緒に溶けることはなく、地面に散らばっていた、『夢の鍵』を拾い上げ、ケンはれのを、空間から、締め出した。


珍しく、厳しい表情をして、本気で怒ってる。ニコニコの目が、今は凶器となり、視線が、れのを射抜いた。
「……れの……私、かつてなく、怒ってますから。後で見ていて下さいね……」


「きゃぁ〜! いいところだったのにぃ! 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した、なの〜! くやしぃい〜! なの!」


ケンが、『夢の鍵』と、お馴染み・実はただのボールペンである『夢のステッキ』を振るうと、空間に裂け目が発生し、強制的に、れのは頭から引きずり込まれて消えていく……。
まぁ……別に、それで死んだりはしない。『夢』の中の、別の部屋へ移動したり、現実世界で目が覚めるだけ。


「悔しいの〜! ケンはズルなの〜! れの、いっしょうけんめいやったのに!」


……と言う訳で、以下略。催淫作用の効果で、どうにかなりそうだった俺を、ケンが手厚く看護してくれましたとさ。


むしろ、そこが読みたかった? それはどうも。今度があれば、また今度!





事件は、幸せな形で収束。だからって、今回のことが良かったとは全く思わないが。

というか、やっぱり最初に言った俺の考えの通り、地球の、『植物』とかいう生き物は、絶対にヤバくないか?
こんな生き物に、地表の殆どを覆われているこの星を、俺はこれからも愛していけるだろうか?

まぁ……こんなにされても、俺は、れのを好きなことをやめないし……ケンとれのと、三人でずっと一緒に居たいから……。
そしてそれは、今はれのに怒ってるみたいだけど、ケンも同じだと思うから。





その出来事の、ちょうど、丸一日後。



俺たちは『夢』にまた、真っ昼間だが集まっていた。そこには、俺・ケン・れのの他、もう一人……。



「ハローハロー。みんな。調子はどう?」


「ピコ〜! 待ってたの〜! れの、調子はバッチリなのっ☆」


ガラスで出来たイナズマ型のピアスに、猫みたいな、パッチリの吊り目を、ハードなつけ睫毛が覆う。
猫耳みたいに三角に結んだお団子から、くるんくるんって後れ毛が特徴的。
背がとても小柄で……攻撃的なまでの高さのヒールのブーツをもってしても、俺たちと並ぶとちまっとしている。

でも、圧倒的パワーと、存在感。

そして、『ピ』の一文字の、超インパクトヘアアクセ。
白いオーバーオールの、胸元は、透明なポケットの中にしゃらしゃらのカラフルビーズ。
腕や肩に施された宇宙っぽい装飾は、キッチュでどことなく懐かしく感じて、俺は好き。


おっと。女の子に、軽はずみに好きとか言っては、ならない。


『ピコ』とは……俺とケンは今日で三度目。


この『ピコ』という女の子は、例えるなら、そう、れもんみたいな、女の子。


キリッと酸っぱくて、ちょっぴりの苦み、甘いのは、香りだけ。


「オイ! くっつくな、れの! それに、アタシは、みんなに調子を聴いてるんだヨ。れのには聴いてない! 今日は、特別にアンタを怒りに来たんだからねっ!」
スリスリと抱きついたれのをべりっと剥がして、キッとした強い目線をれのに向ける。

「れの! 『お二人と、恋人として、お付き合いすることになったなの〜』って、あんなに、二人に迷惑かけないって言ったじゃん? 例の、洗脳をしてしまった時……にさ〜。しかも今度は、『夢』の中とは言え、聴いた所によると、お前の妄想から化物を産み出すとかいう……信じられない、トンデモ科学なことしてくれちゃって……」



「そうなんだよね。ピコちゃん。どう言ったら、れのは分かってくれるのかな……?」



……は? 今、喋ったのは、ケンだが?

「おい。ケン。敬語とかいう、お前の特有の言語はどうした」
「あっ、それは、ピコちゃんがです、初めて『夢』に来てくれた時の帰り際に、『ケンくんとは、年も近いし、堅苦しいのはキライ。敬語じゃなくて良いヨ』って、言ってくれたんですね〜それで、たまホのナンバーも交換してくれましたし……それにりのんちゃん、敬語とは、私だけの言語ではなくてですね……」
「それは今、どうでも良いよ。お前、ずいぶん馴れ馴れしくないか? ピコさんと年が近いと言っても、彼女は成人してるし……それに」
「おっと! 私も、先日、成人しましたよ〜☆ あの日、私の誕生日に、三人で桜を……一緒に見たではないですか♪」


なんか……。ムカつく……。


「うさぎパンチ!」
「へぎょっ!」


ケンの左頬に、俺の渾身の、うさぎパンチがそりゃもう真っ直ぐ入った。

俺のこと、か細い体で女の子みたいな顔と勘違いして、見くびるなよ。
顔についてはあんまり否定できないところがあるが(『夢』の中でも、顔の整形みたいなことは上手くはいかない)、こう見えていつも肉体は鍛えてるんだ。
いつ、どんな輩が襲ってきても撃退できるようにな!

ケンは勢いでぶっ倒れ、大袈裟に尻餅をついて、左頬を抑えながら……でも、ヘラヘラと笑った。
「アハハ! お久しぶり・うさぎパンチ、頂きました〜。ひょっとして、ヤキモチですか〜? りのんちゃん♪ でも、私、あなたにだけは、いつもこの……溢れんばかりの敬意をですね、払っていたいんですよ〜」


腹の立つやつ。ケンって、女性とくれば、やっぱりそうなんだ。距離感が、俺たちに対してとぜんぜん違うじゃん。
よく考えたらそうでもなきゃ、援助交際で生計を立てるなどの非常識な生活が何ヶ月も出来る訳がないよな。
だけど、これは恐らく天性のもの、というか……天然だから、非常にタチが悪いな。


「ちょっ、ちょっとキミたち。ひょっとして、アタシのせいでケンカしてる? ダメだヨ。暴力は」
「あっ、大丈夫、大丈夫。これはうさぎ流の、スキンシップだからさ〜……ですよね? りのんちゃん」

やなやつ、やなやつ。やなやつ……。
うさぎに、そんなスキンシップがあるものか!
それになんか……『女性の扱い手馴れてるよな……それに引き換え、俺は?』などの、また別の色々な心情が複雑に入り混じり、様々な言語化できない感情に襲われる……この野郎……俺は、屈辱を受けた……でも、とりあえず今は、矛先を収める。


「ピコちゃん、悪かったです。騒々しくて申し訳ない。ちょっと……じゃれたというか」
「問題ないなら、別にイイよ!  りのんちゃん……キミは……ケン君と、お付き合いしてるんだよね。」
「はい」


俺から見て、ピコさんは……ここの国の慣用句で言うと、竹を割ったような性格で、サッパリとしている。
それに、誰に対しても平等で、公平性を保つし、清潔感がありとても礼儀正しく、マナーもあり、接していて気持ちが良い。


れの曰く、「れのなど〜ピコの前では、お星さまの引き立て役・Bさんですなの。そして、誰よりも強いピコでないと、認めないの!」

……このフレーズ、どっかで聴いたことあるな……? まぁいい。
「あぁ〜! れのも〜りのんちゃんと、お付き合いしてるの〜忘れないで欲しいの! ケンの恋愛が遂に炸裂してしまったせいで、ケンは、れのにも恋をしたのよ。だから三人でお付き合いしている、イイ仲なの。手っ取り早く言えば、さんピーね!」


ピコさんは、一喝した。

「黙りな! クソ犬っころ! じゃあ、なんでお前は、りのんちゃんに酷いご迷惑をかけたの?」


れのは、とうとうと……堰を切ったように、語り出した。


俺が、宇宙のうさぎであり、また、以前は王子様という身分であり、地球に乗り物が落っこちた際に、一目惚れをしてしまったピンクのうさぎの女の子に、悪行を働いたということを……。
「りのんちゃんは、若い肉体を持て余すうら若き乙女に狼藉を働いたのにも関わらず、未だ裁きを受けていないの〜。『催眠術』の宝石は結局、記憶を忘れてしまうという、欠陥品だったのよ!
……やっぱり、王子様という高貴な身分のお人が、私刑に処せられると言えば! ディス・いず・えっちな触手モノに限るのだわ!
ピコだって、下賤の者に無理くり発情させられて『くっ殺……』とか言ってる高貴なお人を、無料のエロ漫画とかで見たことがあるでしょう〜?」


何となくだけど……まず、一般の女性であるピコさんは、俺が、宇宙のうさぎであり、そして王子様でもあるということ自体を、普通は……信じないのではないか?

しかしれのの、こだわりのお喋りは止まらない。
「『闇のかわいい』が、本領発揮して、止まらないの〜! お高級な身分のお育ちであるゆえ、穢を知らない……しかし鍛え上げられた魅惑の白い肌に、先端がナニカを思わせる醜悪な赤黒い触手が巻き付いて……そのコントラストは美しいの〜……。やがて王子様の精神は闇に陥落し、すっかり快楽の虜になってしまうの〜!
これこそ、ジャパニーズ・ヘンタイ! かわいい! はいはーい! 知っていますか? かの葛飾北斎も、触手モノなアートを描いているのよ。触手つーか、大蛸の、絵!」

おいおい。まぁ……鍛えてはいるけど、肌は別にさほど白くないし……とか、なんか口を挟もうとしたら……。



「『闇のかわいい』だって……?」



ワントーン低めの、ピコさんの声、それは怒りに震えていた。


「れの……あれ程言い聞かせたのに、まだ、そんなこと言ってんの? かわいいは、『光』! この世を創りし綺麗なものはそう……『光のかわいい』だヨ!」


えっ? 光のかわいい? 闇のかわいい。
かわいいことに、光と闇があるの? 俺もケンも、固まっちゃった。


「確かに、りのんちゃんは、うさぎの女の子のことについて何の罰も与えられていないかもしれない。
けど、王子様という気高きところに生まれたからには、清い心で罪を償って、次は……んんー、りのんちゃんの特技を知らないから、剣だか魔法か分からないけど……愛する人を、必ず守ろう……そうなる筈だよ。
それが、『光のかわいい』! 闇堕ちしてしまった宇宙の王子様は、天使にも似た姿で必ず蘇るんだヨ。そっちのほうが、物語としては美しい!」


こちらもすごい早口。
殆ど聞き取れなかったけど……俺の預かり知らないところで、俺に与える罰や救いが、『闇のかわいい』と『光のかわいい』によって、分類されようとしている……?


「ベロベロベ〜! 『光のかわいい』なんて、最近は流行らないんだもの! 見るでしょ? 夜中の神室町に立っている、地雷系ホス狂いの女の子たちを! 不幸・イズ・青春べすと! 尊厳死イコール、『闇のかわいい』!」

「お前の目こそ、節穴か? その地雷系の女の子の持つ、鞄を……見てないよね? かわいいの金字塔・ヨンリオの、頭巾のうさぎさんが、いっぱいくっ付いてるでしょーが! 『光のかわいい』は、今日も乾いた彼女たちの心を、照らし、救っているんだからっ!」



俺にも分かった。今度こそ、めっちゃ関係ない話になった……。



「ヨンリオは超かわいいよね〜♪ 私、人気投票の時に、毎日たまホで投票したよ〜」
「えっケンくん、そうなの! 良かったら、推しキャラ教えてヨ〜!」
「私の推しは、こみみゅみょんかな〜♪ 程よく儚い雰囲気が、たまらないんだよね〜」

ケンまで……。これは……。今日は、流れ解散かな……。



俺の罪は、消えることはない。
れのの言う通り、植物とかいう人外に犯された上に、そいつの養分やら苗床になってしまう結末が良いという考えも、まぁ過激だけど、あるだろう。


俺は……れのを、許そう。こんな、断罪会議は、間違っている……と、思ったその時。


「そーゆう訳だから、アタシのバイトが暫くオフの時に、れのは借りていくネ。しっかり調教して……まず『闇のかわいい』とかいう危険思想を捨てさせないと」

「キャッキャ! ご主人様のお仕置きは、しゅっごく気持ちイイお仕置きだから、れのは、気持ちイイことい〜っぱい! してもらって、そして自分の『闇のかわいい』の考えも捨てず、一人勝ちするの〜!ヒャーッヒャヒャ!」
「言ってろ馬鹿犬! じゃあ、また連絡します。ケンくんの通話で良い?」

「うん、良いよ〜またね。ピコちゃん」



ピコさんは、閃光のように、去ってしまった。



後ろ手に、『夢』をバイバイしたピコさんを見た最後に気付いた、腰にチェーンで、ピコさんの本来の姿と同じ、白い猫の……マスコットを着けていたのを見た。




その白猫は、スラリとした姿の、なんだかセクシーポーズなお人形で……。
言い逃れのしようのない失礼な言い方になるが、ピコさんの、『げんじつ』での姿は、確かに白い猫であるけど、ピコさんはちっこいので、それとはまったく似ていなかった。


その猫は、分からないけど、ピコさんの理想だったりするのだろうか?
『光のかわいい』の人形……なのかな。


地球のこの世では、『光のかわいい』と、『闇のかわいい』が、凌ぎを削って争い合っているんだ。今日は……それだけが分かった……。
俺の母星の、三代前の王族も、惑星間戦争で皆、死んだよ。争いというのは、どのような規模であっても、無益なものなのに。



しかし、れのとピコさんの、あの二人……意外と……仲良いんだな。
「ピコは、れのの首輪をくれた、SMの女王様なの〜首輪は、れのが何をやってもどーやっても、絶対に外れないの!」って言ってた時は、もっと、その、エスエム? の(『エスエム』は、この星・この国に来てから学習した文化だ。)、契約上の……ドライな関係かと思っていた。


「いや、お二人は仲良くは、ないと思いましたが……」

ケンが、勝手に俺の心を読みやがった。

「フン。今日は、お前の相手はしない。すーん」

「ええっ! なんでですか〜? りのんちゃん〜! えーん!」



ケンは、俺の従者であり、もののついでに彼氏である。
いくらお前が話術に長けているからと言って、女性と楽しそうにお喋りしやがって。俺に恥をかかせた罰として、今夜はお預けに処す。



……このお預けの刑は、『光』と『闇』、どっちの、『かわいい』刑?






☆つづく☆