
第4回:
れもんみたいな夏の光なの
ピコの作ったその『夢』は。
澄み渡る青い空をつんざくピカピカ日差しが眩しくて、肌を射す光は痛いくらい、掃除の行き届いていないその部屋は、宙の埃さえもが……キラキラと、妖精の粉のように舞っていたわ。
でも……そのピコの心映す、キラッキラわーるどは、さながら天使の飛び交う天国のようでもあったけど……。
眩しさが寂しくて身を灼いて焦がす……そう。
地獄のようでもあったの。
「来たな? クソ犬っころ。この……『夢』世界では、その付け猫耳は、ほんものになるのね。リアル猫のアタシからすると、けったくそ悪くて反吐が出るヨ」
「にゃ〜ん。よろしくお願いしますなの〜! ご主人様!」
れのの、猫耳が、嬉しくて嬉しくて、勝手にぴこぴこ、動いてしまうの〜!
この耳の動きはね、れのの脳波に連動しているのよ。
げんじつの猫の、耳の動きのメカニズムなんて、知らないの。れのはただ、見た目が超かわいいから真似をしているだけなのよ。
それと……昔の……あの日、ご主人様の、奴隷になってしまったあの日……れのは、その猫の耳に、つよく憧れてしまったの!
れのは、れのなの〜。
男とか、女とか、犬とか、猫とか、ないの〜!
れのは、あの日、ご主人様だけの『おんなの子』になっちゃったのです。
れのは……先日『夢』の世界に、触手植物という架空生物を爆誕させ、それによりりのんちゃんを辱めた……という謎の罪により、断罪されるの。
りのんちゃんは大して怒ってなかったのに、フシギだわ。
あの人外せっくすは、相当気持ち良さそうなご様子だったし〜。
イケナイこと程、蜜の味なの〜。今度は……そうなの、ふぁんたじーエロスに稀にある、ゴーレムや大鬼などの醜悪な集団怪物を魔法陣で召喚して、穢を知らない高貴な王子様を襲わせて背徳の快楽地獄に叩き落とすのもイイの。れのは、そのご様子をまたまた高みの見物するの!
れのには、無敵のイマジネーションぱわーがあるの。
りのんちゃんも、れののことを「いくら『夢』の中だからって、架空の生き物を実際に命として誕生させるとは、理を超えている……」と、感心していたの!
れの褒められちゃった〜キャッキャ!
「猫スラッシュ!」
「ふんぎゃっ!」
なんなの? いきなり、ご主人様から、ボディに重たい一撃を喰らったわ。
「心の声がダダ漏れだゾ……。あのさぁ、一から説明しないと、分からないかな?
りのんちゃんは、アタシの見たところだけど、かなりアンタに甘いよね。
でも、ケンくんは、アンタのことも普通に判断するし、かなり怒ってるの。
アナタ達、三人で恋人として成ってるのでしょう?
その事がイイとか悪いとかアタシの頓着するこっちゃないけど、ケンくんがあんなにお怒りなのを、放っておいて、イイとこ取りしようったって、それは、恋愛でも何でもないワケよ。
だって、もうセフレじゃないんでしょ? 三人で付き合ってるって確かに言ったよね?」
「そうなの〜! ケンは、遂に、れのの魅力に負けて恋をしてしまい、これから恐らくヤンデレ堕ちするの。
セフレは、やめたの〜三人で恋人さんなの〜! だって、そっちのがオモロイから!」
「だったら、アンタが納得行ってなくても、ケンくんの怒りも、真摯に受け止めないとね。いい加減な恋人付き合いなんて、それこそセフレよりオモロくないでしょ?」
「そうなの〜。ケンは、りのんちゃんという元・王子様に、多大な夢を抱いている節があるから……れのは、そんなケンの、りのんちゃんよ清純であれ……という男子〜な夢を……壊してしまったのね……」
ご主人様は、チョー微妙なお顔で言いました。
「うーん……チョット……やっぱり違うんだな……。アンタ、意外と物分り悪いナ。
まぁいいワ。今日は……アンタが、りのんちゃんを尊厳破壊できるような、大層なご身分でなく、一介の奴隷の犬に過ぎないということを……肌身に分からせてやるよ」
……ドキドキ……。心が、跳ねて躍るの。
これかられのは、それはもう、元のれのに戻れない程に「わからせ」られてしまうの!
あぁ……どんな、えっちな目に遭わせてくれるの? ご主人様。
もう、想像しただけで……お腹がキュンってしちゃう。
「……突然になんか知らんけど、涎が垂れてるよ、この犬野郎。素敵なお召し物が台無しじゃん」
そうなの! れのの今日のコーデを、紹介するの!
(今日は、絵で、どこにも描いてない、おりじなるな衣装なの〜!)
晴れの日に、れのが着るなら、それは勿論、『どりらびクラシック』!
ロリータ衣装と言っても暑苦しくはなく、さながら、都会の喧騒を離れた美しい避暑地で、お紅茶でもしているお嬢様……をイメージした、この初夏の『夢』に相応しい、涼やかなドレスなの!
ふんわりパニエは、キュンと甘酸っぱい檸檬のお上品な総柄。
トップスは夏らしく白いラインの二重に引かれた、黄緑色のセーラー襟を、湖の底のような碧い色の細〜い紐でりぼん結びにして……。
お袖は、白の星降るレースがふんだんにあしらわれた透け素材を、三段で重ねた、妖精さんのように儚げなイメージ!
粒の小さな真珠を纏った、レースのショート手袋も忘れずにね。まぁ、どうせ取っちゃうけど! プレイの邪魔だから! でも、様式美なの〜。
じゅるり。何も始まってないのに、自分の涎でお洋服を汚している場合じゃないの。
「前に『夢』に来た時にも思って……聴こうと思ってたんだけどね……なんでアタシの人の姿は、こんなにお胸がナイの? 迫力がナイんだけど」
ご主人様は、ちょっと不満そうに言いました。
確かに、人の姿の、ご主人様は、女性的な丸みというものが一切皆無の、一本の棒のような……体型でいらして。
「う〜ん……れのが前に、りのんちゃんに聴いた限りでは……『夢』の姿は、『ほんとう』の姿なの。
『夢』がイマジネーションでコーティングされているとは言え、お顔をセーケイしたり、げんじつと違った印象の体型になるのは無理……。
という事なの〜。つまり、ご主人様は、お胸がナイのが『ほんとう』」
言うか、言わないかのところで、また、れのに一発入ったの。
「猫ストレート!」
「ぎゃんっ!」
「うるせーよ! 分かってらい! アタシが、女王様らしからぬ、ちんちくりんの猫だって事くらい……。
でも、そのレベルのリアリティで『夢』はノン・フィクションとも分かったわ。やる気が出るね」
あぁ〜そうなのよ。れのは、今日、ぎったんぎったんに、ご主人様から、調教されてしまうの。うっとり。猫ストレートは、大して痛くなかったの。
人の姿のご主人様は……全体が白のエナメル素材で作られた、チョー際どいボンテージ衣装の姿なの! ドッキリ! セクシー!
ご主人様は「ちんちくりん」と自虐したけど、背はまぁちっこいけど、腕も、脚も、お腹も、スラリとして、美しいの!
どことなく、げんじつでは猫である事を思わせるシルエット。
「もうひとつ、聴いてもイイ? この……『夢』の、部屋は……なに?」
さっきから、れのも、疑問に思っていたのよ。
そこは、これからSとMな行為をする為にあるとは思えないような……。
そう……ここは、れのは、通ったことがないけれど……学校?
そして、よく学校の映像とかで見る、一般的な教室……の感じとも、違ったの。
大っきな窓から、さんさんとお昼の光が入って、埃がきらきらと舞っていたの。
広い床。とても大きな机。ましかくの椅子。透明な扉の棚には、定規に、釘に、工具……そう、ここは……。
ここは恐らく、ピコの思い出の……あの、『図工室』なの!
「ご主人様は、ここでのプレイをご所望だったの?」
「んな訳ねーだろ! ココは、アタシの超〜大事な場所! アンタが『いめーじすれば、好きなお部屋で『夢』が開始されるの〜』と言ったから、超ハードに責めても大丈夫なように防水でとか、そして様式美に則って……とか、色々と考えてやったのに!」
う〜ん。ご主人様ってば、いまじねーしょんが、貧困なの?
そんな訳、ないよね? だってSM行為は、双方のいめーじに依って行われるのだから。
それならば、考えられることとしましては……。
「ご主人様。初めて『夢』で集合した時にもりのんちゃんが言っていたケド……『夢では嘘は吐けない』の」
「……!」
「きっと、ご主人様の、いわゆる〜深層心理の、ピコが……」
「……。もういい」
ご主人様の右手が、ぽわんと淡く光って、それはしなやかに形を成し、一本の……鞭となりました。
かわいいの。
持ち手が、魔法少女のステッキみたいにハート型とリボンの装飾になってるの!
でも……これは、鞭の種類で言うと、お馬さんを叩くやつなの。
勿論、叩かれるとどの種類の鞭よりも超痛いし、攻めが下手だと、れののお肉が裂けちゃうの〜!
「もう、細かいことはいい……。場所なんて、どこでも良いし。始めるよ」
真っ黒のアイラインとつけまガッツリの、猫目で、射抜かれて。この場の空気は、もうご主人様の支配下。
陽射しと裏腹に、つめたくって、身の凍りつくような、今、この瞬間から。はぁ……ドキドキしちゃうの!
じっさいの『図工室』には、そんな物は無いと思うけど、ココには、あの初めての夜みたいに、大きな鏡があるの。豪奢に装飾されて、とても素敵だわ。
その正面に写し出されているれのは、とっても素敵な檸檬のドレスの上から、その意匠の儚さを打ち消すような、ドス黒赤い麻縄で身も蓋なくぎゅうぎゅうに全身を縛られて、四つん這いにされている、惨めな姿。
縛られるのって、素敵なの。
ご主人様は指一本触れていないのに、ずっと抱きしめられてるみたいに感じちゃう!
ご主人様と、れのの間のルール。
それは、『れのが、「たすけて」って言ったら、やめる』という決まりなの。セーフワードってやつね。
他の言葉を言っても、妨げにはならないの。だから、嘘の「やめて下さい」「いや……」を、いっぱい言っちゃおうと思うわ♪ 盛り上がるから!
ひゅっ……それは、今までの甘ったれた空気を、一切分断するように。
ばしっ!
ご主人様は、四つん這いになったれのの、お顔の近くの床を、その鞭で叩きました。
耳を犯す音が、すっごく鋭いの……。空気は明確に、衝撃で振動したように感じるの。
あぁ……今からこれで、体を打たれたりしちゃうの。きっと、すっごく痛いの。はやく……。
ご主人様は、地面に着いたれのの手を、ブーツでふみふみしたの。
「姿勢を崩せないでしょう? そういう風に縛ったからね。勃起してるけど早いよ。最後まで持たないよ? 今日は、れのはお仕置きされます。なぜでしょう?」
「……はい。れのが可愛すぎる罪でぇす……♪」
れのの正面に立ったご主人様を見上げて、お答えしましたの。ご主人様の、匂いがするの……革の匂いと、女の子の匂い。頭がくらくら、素敵なの。
「残念。お前はダメな犬。今日は……元々、手加減する気無かったけど」
言い終わるか、終わらないかの瞬間、きゅっ……と、むせ返るような夏の空気を引き裂いて、その鞭がれのの背中に、振り下ろされました。弾けるみたいに、激しい音がその小さな部屋に響き渡りました。
「……ぁ……っ……!」
声にならないの。
「犬は、りのんちゃんを大事にしなかったので、お仕置きされます。オーケー?」
『顎クイ』されて、すぐ突き放されて、お顔を、厚底ブーツでガンッて蹴飛ばされた後、ご主人様はれのの後ろに回り、れののおしりを何度も、高い高い位置から、凶悪な鞭で打ちました。
「ぅあ……!ぃ……ぃたいぃ……ぅ……!」
涙が勝手に、ぽろぽろ、床に落ちました。でも、頑張って、四つん這いを保ちましたなの。
体を、みっともなくくねくねさせる事しか出来なくて、それをする度、縛られた部分が軋んで身体に擦れて、素敵なドレスは悲鳴を上げるているし、肌に直接刺激されてるみたいに感じるの……。
「『なの』はどうした? それと、そのドレスはもうダメだね!」
「……にゃ……にゃにょ……ぉ……」
「言えてないぜ? クソ犬っころ」
また、一発、二発。
「きゃぁぁ……っん! いやぁあ! いたい……の……ぉ……!」
勝手に零れる涙も、だらしない涎も、吹き出す汗も、止まらないの。こんなにも、れのは、ダメな犬なの……。
見えてないけど、おしりが、きっといっぱい蚯蚓脹れになってるの。うぅ……っ、毎日のおしりケアが……台無し……。……最高なの……。
はしたないの。顔が、緩んで、勝手に笑っちゃうの。
「痛いの気持ちイイね? もっとキモチ良くなろうね」
腕が……四つん這いになった腕が、保ってられなくてぷるぷるして、へちょって、床に顔を着いてしまうの……。
「あっ……! ああんっ! キモチ良いのいやぁ……!」
おしりの部分のドレスを、いとも簡単に指先で引き裂かれて、れののおしりにくるくる宛てられてるのは……鏡を見ると、ぎゃっ、見たことない、グロいバイブなの〜。
「そ、そんなの、挿れられたら、おしりが変になっちゃうの〜やめて下さいなの〜……!」
「うるせーよ。りのんちゃんが、どれだけ怖かったか分かる?」
「あっ……あぁ〜! やっ……やぁあ〜……!」
れのの言葉とは関係なく、その有り得んくらい太いバイブが、馴らしもされずに、突っ込まれていくの……! 鏡で、見ている事しか出来ないの。
縄で縛られている部分が、背を伸ばすと、全身をきつく締め上げるの。また、全身を、くねくねさせることしか出来ず、それを受け入れるの。
「あっ……あぁ〜……」
床に、れのの涎が、池になってるの。無様な姿なの。
せっかくのドレスも台無しなの。りのんちゃんって、お洒落とか好きなのかしら? 好きそうなの。あの時は、お洋服が溶けちゃって、悲しかったかな……。
ご主人様が、鏡ごしに、遠隔操作のリモコンを見せ付けてくるの。
「何分耐久できるか、見てみましょう」
「やっ……やめてなの……ご主人様……あぁあ〜……!」
お腹の中が、めちゃくちゃなの!
「……ぅ……っ……うぁ……く……ぅ……」
お腹の中で、バイブが暴れる度に、さっき叩かれた所が疼いて、縛られた部分が熱くて……もっと……もっと痛いの欲しいの……。
「……ご、ごひゅじ……ん、さまぁ……。いたいの、ほしぃのぉ……」
「ふーん。でもバイブ止めないからね」
ご主人様は、魔法少女の意匠の鞭を取り出して、バイブが刺さったままのれののおしりを、また何発も、叩きましたの。
それは、快楽なのか、痛みなのか、快楽なの……か? 痛みなの?
とびっきり痛くて……死んじゃうほど甘くて、れのの男の本能は、また死にました。
あぁ……れのは、れのは、こんなにも、ご主人様のモノ。
恋人でしかない、りのんちゃんに、尊厳破壊を与えるなど、若輩者なれのには、早かったのだわ。
りのんちゃん。ごめんなの。
植物、怖いと言っていたよね。帰ったら、ほっぺたをペロペロしてあげるの……。
「おっ。れの、また死んだな。……りのんちゃんに、ごめん出来る?」
鞭の先端でまた『顎クイ』されて、ご主人様を見上げて、れのは、誓うの。
「……はいなのぉ……り、のんちゃ……に、ゴメンナサイ……します……の……」
呂律が回らないの……でも、しっかりお答えしましたの。
「れのは、素直に応えるから、いいね。イイ子」
その……ご主人様の、ちょっと嬉しそうな声だけが。
それだけが……れのの、お砂糖菓子なの。
「射精できなくて苦しいね。女のアタシに犯されて、イっちゃいなよ」
なにもかもが、虚ろだけど……鏡に写ったボロボロのれのの後ろに、白のエナメルの上から、擬似のペニスを着けた……ご主人様が、立っている。
あぁ……ご褒美なのぉ……。
これが、一番大好きなの!
ご主人様の、お肉の色のそれが、れのの、バイブを抜かれて、はくはくとだらしなく口を開ける中に、ゆっくり……入ってきて……。
「……ぁあっ……も……無理なのぉ……」
ぜんぶ挿入されて、ご主人様の熱い肌が、れのの剥き出しのおしりにぴったり触れたとき、頭の中が、ほわほわほわわ〜……ってして……。
だめ……また射精できないの……できないのに、イってるぅ……おめめチカチカ、あたまがぐるぐる、お脳がふわふわに……なっちゃうの!
「……あっ……あぁぁ〜……」
取り繕う余裕もなく、かわいくもない、情けないだけの喘ぎ声を上げながら、ご主人様に、容赦なく後ろからガンガン突かれるの。
はぁ〜……かわいい女の子のご主人様に、こんなにも掘られてるの。ご主人様、笑ってる。れのって、いったいなんなの? ただの、ご主人様のお戯れの玩具なの。
さっきよりもより濃く……女の子の匂いが、するの。ご主人様も、興奮してるのね。
こんなに嬉しいことは、ないの。
そしてね、男にヤられても、相手がイったらおわり〜だけど、このあま〜い責め苦がいつ終わるかは、ご主人様のさじ加減ひとつなの。
「……ひゃっ……いやぁあ〜ぁん!……あぁ〜!」
バチバチ、花火みたいに頭の中が弾けて、何度も、何度も、天国へ、行ったと思ったら、戻って来て、また天国行っちゃって……繰り返し、繰り返し!
ふえぇ……中でイっちゃうのが、止まらないの……! 鞭で打たれた痕や、縄で締め上げられてる箇所が、呼応するように疼いて、全身がわななくのを止められないの。
「……た、た……し……ゅ……、た……」
アレレ? ……ヤバイ?
『助けて』が、口から、出てこないの。呂律が回らないの。てゆーか、息も、ひゅっ、ひゅっ、ってなっちゃって。
ヤバイ、やばい。も〜、ダメになった。しぬ〜……!
……気が付いたら床で、ご主人様の、お膝に、膝枕をされていたの。
素敵なロリータのお洋服はヨレてズタズタ、ドレスの上から無残にグロイ麻縄で縛られた、まんまだったの。
「水……飲む?」
『夢』だからね。ご主人様が、この、机椅子と工具しかない『図工室』に、コップのお水をご用意して下さいましたの。
ご主人様は、別に心配した表情とかは、していなかったの。
まぁ、割合、いつもれの、こうなるから……。あんなに発音できてない「助けて」が、ちゃんと届いていて良かったの。
ご主人様が、アマチュアじゃなくて、助かったの。
「……は……はひ……ぁ……」
……つめたい、お水。
少しお口に含ませてもらったら、ひんやり、これが、生きた心地がするというものなの。れのは、静かに目を閉じました。
その時にね。
……コツン。
天井? から、突然なにかが、降ってきたの。
それは……れののお顔の横の、黒髪の上に、落っこちました。
ちょっと首を傾けて、見ると……。
これは……ご主人様の……ピコの、たま〜に持ってるの見る、セクシー猫の、人形キーホルダー。
この猫ね。
実は、ちょこっと、ピコに、似てるのよ。
別にピコみたく『ピ』って書いたアクセもしてないし、でっかいイナズマも着けてないけど。
そして何より、ピコよりも、すたいる抜群で、チアリーディングの衣装をお召になって、ナイス・エス字ポーズをバッチリ決めてるけど。
白い、猫で……キリリッとした目元、ふさふさの毛並み、瞳に輝く星。
……まぁ、かなり古いお人形みたいで……毛並みは、ちょっとくたびれてるけど。
「……なんで、コレが」
ピコは息を飲んで、『ご主人様』の顔から、『ピコ』の顔に戻っちゃって、お人形をピコの枕元からひったくると……手のひらの中にそれを隠したの。
あらら……指が、震えているの。……でもれのは、指摘する程、野暮じゃないの。
「アタシは……こんなもの、『夢』に、持ち込んだ覚えは……」
瞳にゆらゆら、深い戸惑いの色。
「……ピコ。もしかして、それは……。……としおの、作ってくれた、ピコなの……?」
「えっ」
絶句のピコなの。
れのはぜんぜん、ちからが入らなくって、まだあまり……お喋りしにくいけど……。
「……ピコに……よく似ているの……。としおは……お人形を、作るのでしょう?」
「としおが! アタシの人形なんて! 作るワケないじゃん!」
ピコは……焦った様子で、言いました。
……違うのかぁ。残念なの。ハズレ〜。
「アタシが……買ったの。そう……アタシに、似ているって、自分で、思って……」
「……はは……。『夢では、嘘は吐けない』……か……」
ぽた、ぽたり。
温かい……なにかが、ひと粒、ふた粒……と、膝枕されている、れののほっぺに、落ちました。
それは……ピコの、涙でした。
「……としおは、アタシのお人形なんて、作らなかったよ。
一応、作ったら、おもしろいと思う人を、楽しいと思う人を……作ってたみたいだったから……。
……だから……アタシは、もし、としおがお人形を作ってくれたら、こんなのかなァ……って、思って……ぅ……」
どんどん、涙が止まりません。
「この『夢』のお部屋、あの日……お別れした日の、陽射しや、匂い、空気と、まるでソックリだったよ。
これが、アタシの『夢』……こころに……嘘は吐けない。
誤魔化しは、効かないんだね……。あのお別れの日から、10年の日が経ったヨ。
でもココは、まるで、空気ごと切り取ってどっかへ保存されていたみたいに、あの時とうり二つ。
そして、アタシの心も……あの時から、止まったまま。……あはっ……アタシ、なに、思い出の場所で、れのと、ヤってるんだろ?
こんな……くだらない、オトナになった。
彼との思い出は……いつでも、キラキラ輝いているのに。もう……思い出でしか、ない」
も〜なんか、とーっても歯痒いけど、今のれのは、呂律が回らなくて頭もゆるふわだし、奴隷であり人にも犬にもあらずで、まともにお喋りのひとつも出来ないのね。
だから、ピコ、あなたの脳内に、直接話し掛けます……。
ピコ、自分を責めないで欲しいの。
たとえ何年の時が経とうと、ピコのあの時は、永遠の宿った瞬間なの。宝石が、結晶なことと、同じなの。
それに……ピコは今「くだらないオトナになった」と言ったけど、れのはぜんっぜんくだらないとは思わないの。
ピコは、素敵だよ。
日向ぼっこが好きで、『光のかわいい』が好きで……れのには全く訳ワカラン女性の世界だけど、オナニーのことを『セルフ・プレジャー』とか呼ぶ。
女王様で、奴隷が居て……ふつうの友達がたっくさん居て……恋人はひとりもいなくて。
今でも……「としおと恋をしないなら、誰とも恋をしない」と……たぶん、心から決めてて。
れのはね、女王様のピコも、ふつうのピコも、両方好きよ。
男女の友情とかじゃないし、恋愛でもないし、勿論、同情でもないの。
ただ、好きってだけ!
ただ、好きってだけ……は、ピコのキモチもそうかもね。
生涯返ってこない恋が……どれだけたいへんなのか、れのには分からない。
分からないけど……今の、この瞬間の、そのままの、ピコで居てほしいな。
「……今日までの……ピコの、すべては……、としおからの、ギフトなの……」
言うて、脳内に直接話し掛ける能力者ではない普通人のれのは、さっきの部分ぜんぶ犠牲にして、それだけの言葉を、なんとか絞り出しました。
涙の海に、溺れちゃいそうなピコの、濡れたほっぺたに、れのはやっとやっと手を伸ばして、生意気にも触れました。
「……触るな、バカ犬……」
ピコは、歯を食いしばって泣かないようにしていたみたいだけど、せきを切ったように、大声で言いました。
「……うわ〜ん! 大好きだったのに! こんなのってないよ! バカ〜! 好き〜……!」
語彙力ゼロになってて、聴いてるだけで、あいきゅーが下がりそうなの。
でもね。別にそれでいいなって、思うな。
キラッキラのピコ。エネルギーの塊みたいな、ぱわふるなピコの、とても寂しいこころのお部屋。
初夏のこの陽射しはね、まるで甘酸っぱい檸檬の色。
でもちょっと眩しくてかなり厳しいから、油断をして傘を差さないと日焼けしちゃうし、心もチリチリと灼くの。
けれど今までの、ぜ〜んぶのことが……今ここで泣いている、一人の女の子の、ピコを造っているの。
……本当の本当に、ひみつにしてほしいの。
れのは、ちょっぴりだけ……。
あのね……ち〜ょっぴりだけ……としおに、嫉妬しちゃった!
ギャッ! ぜっったいに、ひみつなの〜!
ご主人様の、素敵なこころのカケラに、れのなど、不要な存在!
げんじつに帰ったらね……ケンに、ゴメンナサイして、りのんちゃんに、ゴメンナサイして……。
そして、三人はまた恋をして、れのはケンに甘えて、りのんちゃんを誘惑して、『いつも』に戻るの!
だから……それまでね。
この……ピコの、透明の薄いキャンディみたいな、しゅわしゅわのレモネードみたいな、噴水に出来たすぐに消えちゃう虹みたいな……。
そんな小さな恋を……傍で、少しだけ見させてほしいの。
生意気な奴隷で、ゴメンナサイなの〜!
これからも、れのは、お馬鹿さんを繰り返していくの。
でもね。
生きてくって、瞬間の、ひとつひとつ。
れの、忘れないの。
この瞬間は、ピコのこころを写したの。
檸檬みたいな、夏の光なの。
それは、キュンって切なくて、とびきり苦くて……でもきっといつか、甘くなっていくのよ。
毎日はね、光の粒なの。
ピカピカを、走って追いかけている内に、それはパッと消えちゃうの。
そしたらね朝になっちゃって……生きてるって、その繰り返し。
でもね、キラキラがとっても綺麗で……だから、れのも、ピコも、全ての人たちは、それを捕まえたくなるのよ。
まじで、キラッキラすぎて眩しくてぶっ倒れる、5秒前、なの〜!
☆おわりなの!☆