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前日譚
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『物理で夏を飛ばすって……そうですか』の回
はい、こんにちは。犬のケンですよ。
久方ぶりのお方、はじめましてのお方、どうも、どうも。
あれから……美しい桜の季節が過ぎ去り、私も遂に、成人してしまいました〜。私と、りのんちゃん、れのの……三人旅を続けています。
その生活費を、親の臑齧りしてる分際で、よくノコノコと出てこられるなって? そうですね!そうとしか、言えません!
私の恋人の、りのんちゃん。
そして、更に私の恋人の、れのとの、三人旅です。
話がよく見えないって、そうですね!
う〜ん……色々と、ありました。旅の最初の頃は、りのんちゃんを二人っきりで、付きっきりで保護しておりました。
何度も、蹴りを喰らったり(ヒールが痛いんですよね〜)、うさぎパンチを喰らったり、かと思うと、突然にワンワン泣き出してしまったり、色々と……思い返せば、大変でしたね。
そういう風に言うと、メンタルが不安定なのでは……という風に、思われちゃいそうですが、そういうお話ではありません。りのんちゃんの、心の回復には、必要な過程だったのです。
はっきり言って、ネグレクト。
りのんちゃんの親御さん、ダメダメです。
そうして育った彼の心の傷は、ゆっくりと癒していくべきです。
それこそが……あんな素敵なパレェドを魅せてくれた、私の、星の王子様に、唯一無二の、出来ること。私は、あのように綺麗な子が居るなんて、思わなかったんです。
いつか、再会したら……絶対に言おうって、決めていました。「お友達になりましょう」と。
なんやかやあって、お友達になれました。そして、氷の王子様は、なにかあれば・なにもなくても! マッハの勢いで、恋に落ちてしまう、強烈な惚れっぽさだったのです!
私と彼は、恋人同士になりました。それは、『旅』を始めて、たったの、二日後の夜でした。
肉親にすら、誰にも触れられたことの無い、ひんやりとした彼の肌。それは少し、彼の運命を象徴するようで、残酷でした。
……と、言っている内に……りのんちゃんは、私の悪友・れのに興味を持ちまして。
「れのに会いたい! れのとは誰だ? お前の何なんだ? 会って、とっちめてやる!」
……と、嫉妬で暴走してしまいました。
私も私で、いい加減な性分なもので「まぁ……良いか〜」と、りのんちゃんと、私の悪友・れのを、引き会わせてしまいました。
ここで初めてお話をしますが……私たちは、昼間は、どうぶつの姿で旅をしています。ですが、『夢』の世界では、人となることが……出来ます。
『夢』の世界は、りのんちゃんのシェルター。
幼い頃の彼が、苛烈な現実から身を潜めるため、また、『好きなひと』に出逢いたくて……作った、空想の世界です。
以前の『夢』には、『鍵』がありませんでしたから、様々などうぶつ達が、人となり入り込むなど、大変なことがいっぱい起きてしまいました!
でも、今では、りのんちゃんは精神的にちょっぴり……成長した分、自分のコントロールを覚え、『夢』の世界に『鍵』を掛け、私たちと、秘密の時間を過ごせるようになりました。
本当であれば、この『夢』という世界は、もうりのんちゃんにには必要ないのかも、しれませんね。まぁでも、『夢』とて、中で起きたことは、「無かったこと」にはなりません。
……という訳で、昼は健全に旅をして。夜は『夢』の中でちょっぴりお楽しみを……している訳なんですけど。
まぁ、昼になにかが起きていることも、恋人なんで……あるっちゃあ、ありますが……稀です。何故かと言うと、私は雑種の犬なので、りのんちゃんから謂なき差別を受けているからです! 非道いですね〜。雑種の犬とは、まぐわいたくないって。悲しいです〜。『夢』があって、良かった!
そう、お話の続きです。『夢』の中で、悪友・れのと、りのんちゃんは、劇的に!出会いました!
りのんちゃんは、即座に、言いました!
「かわいい! 結婚して下さい!」
れのは、言いました。
「自称王子様など〜、何様のつもりか〜? 眠たくなってきちゃうの〜。おととい来やがれなの〜。でも、いつ来ても結婚はしないの〜」
繊細なタッチで紫陽花の花の描かれたロリータのエプロンドレスに、腰まで届くふわっふわでツヤツヤな黒髪、ヘッドドレスと猫耳で装飾した、れのは、所謂、『男の娘』です。
『悪友』とか言っちゃいましたが……実は、私とは過去にゴニョゴニョと色々ありました。恋愛感情なんて、まぁ、ちょっぴりも無かったですけど。
りのんちゃんは、「ぜったいに、れのと結婚する! でも、ケンを支配するのは止めない! 」等と言い張り、なし崩し的な感じで、三人で……う〜ん、三人婚をしよう!、ということに……なりました。綺麗な言い方ですね〜。上手く纏まりました。
私も、今ではれのを憎からず思っています。
昔の私は、四方八方に無責任に愛を振り撒くだけで、身を焦がすような恋を……したことが、無かったのですけれど。これ、前の本のハイライト。
れのが、突然、三人旅を抜けたと思えば、ズタボロの痣まみれになって帰ってきて……「腹パンだけで脳イキ出来るように、専門的なオジに調教して貰ってたの〜」等とヘラヘラしているのを聴くと、とても心も痛みますし……(っていうか、健康上、大丈夫ですか?危険プレイ、やめましょう。)今では、嫉妬さえもします。
そんな私を見て、れのは「メンヘラケンを、爆誕させるの〜! 」と元気が、りんりんです。
とにかく、れのも、りのんちゃんも、元気です。詳しくは前の本を……って、もう頒布してないので! びーえるサイトに再録されるまで、お待ちあれ〜☆
お話は、四季が巡ったところに戻ります。
梅雨が行って、もう季節は、夏……という雰囲気が、乾いた空気と綺麗な青空から醸し出されています。
見上げた空は広くて、太陽がさんさん。ピカピカお日様は、もう眩しいくらいです。
私の、宇宙から来たかわいいうさぎの王子様は言いました。
「これから来る……夏とか言う季節を、俺は越せないだろう。何しろ、『おんせん』に入ったくらいで、顔面が謎にピンク色に変化してしまうくらい、俺は暑さに弱いんだ」
「でも〜どうするぅ〜? レスファミでタダ水も、流石に、一ヶ月連続は店員さんおこおこなの〜! バイトリーダーが出てきちゃうの〜」
犬のれのは、冷たい川の水にピタピタ足を浸しながら言いました。
私達には、家が無いんですよね。それは……痛すぎますよね。いつか、直面していた問題だと思いました。はい。保護者である、私が原因です。
「そこで天才の俺は、物理で、夏を飛ばすことにした」
「物理で夏を飛ばすって……そうですか。それで、どうやって?」
りのんちゃんの言うことは、一回、必ず肯定することにしています。どれだけ突飛であったとしても。私、彼の下僕なので。
「俺の乗ってきた飛行機に、コールドスリープの機能が付いている。山に落っこちたとは言え、最後に見た時は、使えそうだった。だから、夏の間は、ずっと体は涼しい環境でスリープしていて、『夢』の中に居ることにする」
「え〜〜っ? 夏と言うのに! バンバンバカンスしないのぉ〜? 夏の間、ずっと寝ているなんて、ワンナイラブがいくつ逃げて行くの〜? 海へ行きましょうよ〜」
「れの。海へ行っている場合ではありませんよ。りのんちゃんの体調に合わせましょう」
五体投地してジタバタと手足をばたつかせる、れのを、取り押さえて、お話を聴きます。
「いぃ〜! 渚のれのは、どの俺より、ヤバくなれるというのに〜? れの、れの、れのれのれのれの! レゲエ・砂浜・なんちゃら〜〜!」
「そういう訳で、向こう二ヵ月くらい、俺は涼やかに眠っていることにする。お前らに強要はしないけど……どうする?」
『どうする?』とか言いつつ、瞳に、不安の翳りが差し込んでいました。それはもう、目一杯。いっつも、強がり。
「私は、あなたの仰せのままに。いつも、傍に居ますよ。機械に疎いのでめっちゃよく分かりませんが、ご一緒いたします」
「……ん。分かった」
ちょっぴり格好つけですけど、彼のひんやりとした手を取って、その甲にキスをしました。りのんちゃんは、ちょっと、お顔をふにゃっとさせました。
「れのは、到底ゴメンなの〜! 夏と言えば、海でナンパ! れのは、女も男もイケるタイプのニュータイプな男の娘、ビーチでビッチな! ハクいスケを引っ掛けまくって、車のバンパーで全身にキスされるの〜りのんちゃんお一人様に構っている場合じゃないのだわ〜渚のガールズが呼んでいるの〜」
「お前、車持ってないでしょ……何なんですか? そのステレオタイプなビーチの妄想は……」
りのんちゃんを見ると、口を『皿』みたいにして、怒りの表情。あっ。またやってしまいました。以前にも、同じことで怒っていたんです。
「ケンは、れのにだけ、『お前』って言う。俺やその他の奴らには、全員『あなた』って言うのに……それって、れのが一番、特別ということか?」
……と、そう言って。
これは……もしかしたら、反論が出来ないのかもしれません。何しろ、今の私は、れのにも『恋』を、してるので。
色々と、デリケート。けど、この三人の関係については、誰に否定されても、外からなんと言われようとも、変えていく気はありません。
以前の私は……「ずっと、傍に居ますよ。あなたが、飽きるまで」と、りのんちゃんへ、度々、伝えていました。
それは、りのんちゃんを、余計に不安にさせて……この関係が何らかの形でいつかは終わるということを、示唆しているのと同義でした。
今は、違います。私は当然、飽きませんし、止めませんよ。りのんちゃんが、れのが、私に飽きてしまったとしても、喰らい付いて、地獄まで。
「コールドスリープって、どんな感じなんですか? 戻った時に、皮膚がふやけてたりしないんでしょうか?」
「俺の星に、そんな騙し騙しの科学技術は無い。俺たちは、眠っているだけで、夏を越せるんだ。その間、意識は『夢』の世界に居れば、二ヵ月位は悠々と遊んでいられる」
成る程ですね。『夢』の世界で、人となって、ゆっくり過ごしましょうか。
「キャッキャッ! お二人は、しっぽりと避暑生活なの〜。うっかりと気持ちが深まりすぎて、れののこと、忘れないで欲しいの☆ どうせならば、『夢』の中で、楽しい『冬』を先取りしちゃったらどう〜?」
「『冬』を、先取り?」